建設業の若手育成が進まない原因とは?中堅社員の残業増加が招く技術継承の危機

建設業の若手育成が進まない原因とは?中堅社員の残業増加が招く技術継承の危機

「若手がなかなか育たない」
「現場が忙しくて教育する時間がない」
「中堅社員ばかりに仕事が集中している」

建設会社の経営者や現場責任者の中には、このような悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。2024年の時間外労働規制の適用以降、若手社員の労働時間は減少した一方で、中堅社員や施工管理職の負担が増加している企業も少なくありません。

しかし、この問題は単なる残業の増加ではなく、将来的な技術者不足や技術継承の停滞につながる深刻な課題です。

本記事では、建設業界で起きている中堅社員への業務集中の実態と、若手育成を進めるための具体的な解決策について解説します。

株式会社 RaisePLAN 代表取締役
武田 祐樹(たけだ ひろき)

総合建設業にて施工管理として17年間現場に従事した後、独立起業。建設現場の生産性向上と施工管理人材の育成を専門とし、現場実務に根差した教育・支援を行っている。

一級建築士一級建築施工管理技士一級土木施工管理技士の資格を保有し、施工管理の実務・教育・デジタル活用を横断的に支援。中小企業庁「デジタル化応援隊事業」ではIT専門家としても活動している。

YouTubeチャンネル『建設業を持ち上げるTV』を運営し、登録者数は1.2万人を突破。施工管理教育に特化した長尺動画は8万回再生を超えるなど、多くの現場関係者から支持を集めている。Instagramや音声配信、電子書籍、オンラインセミナーなど、複数メディアを通じて建設業界の底上げに取り組む。

2023年3月にはAbemaPrimeに出演し、現場効率化や施工管理の在り方についての取り組みが注目された。

記事の監修

腕組みをする運営者

株式会社 RaisePLAN 代表取締役
武田 祐樹(たけだ ひろき)

記事の監修

腕組みをする運営者

総合建設業にて施工管理として17年間現場に従事した後、独立起業。建設現場の生産性向上と施工管理人材の育成を専門とし、現場実務に根差した教育・支援を行っている。

一級建築士一級建築施工管理技士一級土木施工管理技士の資格を保有し、施工管理の実務・教育・デジタル活用を横断的に支援。中小企業庁「デジタル化応援隊事業」ではIT専門家としても活動している。

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目次

建設業界で中堅社員の残業が増えている背景

建設業界で中堅社員の残業が増えている背景

近年、建設業界では「若手が育たない」「中堅社員ばかりが忙しい」といった声を耳にする機会が増えています。

特に2024年から時間外労働の上限規制が適用されたことで、働き方は大きく変化しました。しかし、その影響は単純な残業時間の削減だけではありません。現場では中堅社員への業務集中が進み、将来的な人材育成や技術継承にも影響を及ぼし始めています。

ここでは、中堅社員の残業が増えている背景について詳しく解説します。

2024年問題による働き方の変化

2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、従来のような長時間労働が難しくなりました。

働き方改革そのものは重要な取り組みですが、現場では新たな課題も発生しています。若手社員は残業時間が減少し、定時で退社するケースが増えました。一方で、工期や業務量そのものが大幅に減ったわけではないため、対応しきれない業務が中堅社員へ集中する傾向が強まっています。

特に30代から40代の施工管理職は、現場運営の中心として多くの責任を担っています。その結果、若手の労働時間は減ったものの、中堅層の負担はむしろ増加しているという状況が生まれているのです。

施工管理職に負担が集中する理由

施工管理職は建設現場全体を管理する役割を担っています。

具体的には工程を管理する現場管理、施工品質を維持する品質管理、事故を防ぐ安全管理など、多岐にわたる業務を担当します。さらに近年では、各種報告書や写真管理、発注者向け資料の作成など、書類業務も増加しています。

これらの業務は経験や知識が求められるため、すぐに若手へ任せることが難しいケースも少なくありません。その結果、経験豊富な中堅社員へ業務が集中し、残業時間の増加につながっています。

特に施工管理職は現場と事務作業の両方を担うため、現場での対応が終わった後にデスクワークを行うケースも多く、長時間労働になりやすい職種といえるでしょう。

30〜40代が建設会社の中核を担っている

建設会社において30代から40代の主任・係長・工事長クラスは、まさに組織の中核を担う存在です。

若手社員の指導を行いながら、現場の品質や安全を確保し、発注者や協力会社との調整も担当します。現場運営を円滑に進めるためには欠かせない存在であり、多くの企業で中心的な役割を果たしています。

また、この世代はベテラン社員が持つ技術やノウハウを若手へ伝える「技術継承の橋渡し役」でもあります。しかし、日々の業務に追われて教育の時間を確保できなくなると、若手育成が進まなくなってしまいます。

つまり、中堅社員の残業増加は単なる労働環境の問題ではなく、将来的な技術継承や人材育成に直結する経営課題といえるのです。

中堅社員の疲弊が若手育成を止める理由

中堅社員の疲弊が若手育成を止める理由

建設業界の人材不足を解決するためには、若手社員の育成が欠かせません。しかし実際には、中堅社員の業務負担が増加したことで教育の時間が確保できず、若手育成が思うように進まない企業も少なくありません。中堅社員の疲弊は本人だけの問題ではなく、組織全体の成長や将来の技術継承にも大きな影響を与えています。

ここでは、若手育成が停滞してしまう理由について見ていきましょう

教育に使える時間が不足している

若手育成の中心となるのは、現場で実務を通じて学ぶOJT(On the Job Training)です。しかし、近年は施工管理職の業務量が増加しており、十分な教育時間を確保できないケースが増えています。

本来であれば、図面の読み方や工程管理、安全管理の考え方などを丁寧に教える必要があります。しかし、現場対応や打ち合わせ、書類作成に追われる中で、教育は後回しになりがちです。また、若手から質問を受けても、すぐに対応できない場面も少なくありません。質問に答える時間が取れなければ、若手は疑問を解消できず、理解が浅いまま業務を進めることになります。

特に建設業では現場が最優先になるため、「教えたいけれど教える時間がない」という状況が慢性化しやすいことが大きな課題となっています。

若手が成長できない悪循環が生まれる

教育不足が続くと、若手社員の成長スピードは大きく低下します。そして、その影響は再び中堅社員へ跳ね返ってくることになります。

実際の現場では、次のような悪循環が発生しています。

若手育成が停滞する悪循環

  1. 中堅社員に業務が集中する
  2. 若手を指導する時間がなくなる
  3. 若手が十分に成長できない
  4. 任せられる仕事が増えない
  5. 中堅社員がさらに業務を抱える
  6. 残業が増加する

この状態が続くと、「若手が育たないから自分でやるしかない」という考え方が定着してしまいます。

しかし、それではいつまで経っても業務を引き継ぐことができません。結果として、中堅社員の負担は増え続け、若手育成も進まないという負のスパイラルに陥ってしまうのです。

技術継承が進まなくなるリスク

若手育成が停滞すると、将来的には技術継承にも深刻な影響が及びます。

建設業には、マニュアルだけでは伝えられない経験や判断力が数多く存在します。現場で培われたノウハウやトラブル対応力は、日々の教育や実践を通じて受け継がれていくものです。しかし、教育の機会が減少すると、その知識や技術は特定の社員だけが持つ「属人化」の状態になってしまいます。

さらに今後は高齢化によるベテラン社員の退職も加速していきます。もし技術継承が十分に行われないまま退職を迎えれば、長年蓄積された知識やノウハウが会社から失われる可能性があります。その結果、新たな人材を育成することが難しくなり、慢性的な人材不足がさらに深刻化してしまうでしょう。

だからこそ、若手育成は単なる教育課題ではありません。会社の競争力を維持し、建設業の未来を支えるために欠かせない重要な経営課題なのです。

建設業におけるOJTだけの教育が限界を迎えている

建設業におけるOJTだけの教育が限界を迎えている

若手育成が進まない背景には、中堅社員の業務負担だけでなく、教育手法そのものの課題もあります。

これまで建設業界では、先輩社員が現場で教えるOJT(On the Job Training)が主流でした。しかし、人材不足や働き方改革が進む中で、OJTだけに依存した教育体制には限界が見え始めています。

若手を効率よく育成しながら中堅社員の負担を軽減するためには、従来の教育方法を見直すことが重要です

現場任せの教育が抱える問題点

OJTは実践的な知識や技術を習得できる一方で、教育内容が属人的になりやすいという課題があります。

例えば、同じ施工管理の業務であっても、教える人によって説明の仕方や重視するポイントは異なります。そのため、若手社員が学ぶ内容にばらつきが生じることがあります。

また、現場の忙しさによって教育に割ける時間も変わるため、十分な指導を受けられる社員とそうでない社員が出てしまうケースも少なくありません。

結果として教育品質が安定せず、若手社員ごとに習得スピードや理解度に大きな差が生まれてしまいます。

特に近年は中堅社員の負担が増加しているため、「教える人の経験や余裕に依存する教育体制」そのものが限界を迎えつつあるといえるでしょう。

属人化が起きる原因

建設業界では長年にわたり、経験豊富な社員が後輩へ技術を伝える文化が根付いてきました。しかし、その仕組みだけに頼り続けると属人化が進みやすくなります。

属人化が起きる大きな原因の一つが、マニュアルや教育資料の不足です。図面の読み方や工程管理の進め方など、本来は標準化できる知識であっても、口頭で伝えられているケースは少なくありません。

また、教育担当者や育成フローが明確になっていない企業では、教育体制そのものが整備されていないこともあります。

さらに、業務手順が標準化されていない場合、「この人しか分からない」「この人しか対応できない」という状況が発生しやすくなります。

こうした状態が続くと、若手育成だけでなく会社全体の生産性や技術継承にも悪影響を及ぼす可能性があります。

OJTとOFF-JTを組み合わせる重要性

これからの建設業界では、OJTだけに頼るのではなく、OFF-JT(研修やeラーニングなどの座学教育)を組み合わせることが重要です。

例えば、図面の読み方や施工管理の基礎知識、安全管理の基本ルールなどは、研修や動画教材を活用して学ぶことができます。こうした基礎教育を事前に行うことで、中堅社員が一から説明する負担を減らせます。その上で、現場では実際の施工管理や職人とのコミュニケーション、トラブル対応など、実務に即した応用力を身につけてもらうことが理想的です。

つまり、「基礎知識はOFF-JTで学び、実践力はOJTで身につける」という役割分担が重要になります。この仕組みが整えば、若手社員は効率的に成長できるだけでなく、中堅社員も本来注力すべき技術指導や現場運営に時間を使えるようになります。

教育を個人の頑張りに頼るのではなく、仕組みとして構築することが、これからの建設業に求められる人材育成の形といえるでしょう。

若手育成と中堅社員の負担軽減を両立する方法

若手育成と中堅社員の負担軽減を両立する方法

中堅社員の残業を減らしながら若手育成を進めるためには、「教育を仕組み化する」という考え方が欠かせません。これまでのように現場任せの教育を続けていては、中堅社員の負担は減らず、若手の成長スピードも上がりません。重要なのは、教育と業務効率化の両面からアプローチすることです。

ここでは、若手育成と中堅社員の負担軽減を両立するための具体的な方法を紹介します。

eラーニングを活用する

近年、多くの建設会社で導入が進んでいるのがeラーニングです。従来であれば先輩社員が何度も説明していた内容も、動画コンテンツとして共有することで、若手が自分のペースで学習できるようになります。

例えば、図面の読み方や工程管理の基礎、安全管理の基本ルールなどは、現場に出る前に学習できる内容です。基礎知識を事前に習得しておくことで、現場ではより実践的な指導に時間を使えるようになります。また、動画教材であれば何度でも見返すことができるため、理解度の向上にもつながります。「毎回同じ説明を繰り返す時間」を削減できることは、中堅社員の負担軽減において大きなメリットといえるでしょう。

教育コンテンツを標準化する

若手育成を効率化するためには、教育内容そのものを標準化することも重要です。例えば、業務手順をまとめた動画マニュアルを作成しておけば、担当者による教え方の違いを減らすことができます。また、教育チェックリストを活用すれば、習得状況を可視化できるため、教える側も教わる側も進捗を把握しやすくなります。

さらに、スキルマップを作成することで、「どの知識や技術を習得すれば次のステップへ進めるのか」が明確になります。教育内容が整理されていない企業では、若手によって習得レベルに大きな差が生まれることがあります。しかし、標準化された教育体制を整えることで、誰でも一定レベルまで成長できる環境を構築できます。

教育の属人化を防ぐことは、技術継承を進める上でも重要な取り組みです。

外部研修を活用する

若手育成をすべて社内で完結しようとすると、中堅社員や管理職の負担は大きくなります。そこで有効なのが、外部研修の活用です。専門講師による研修では、施工管理の基礎知識や安全管理、コミュニケーションスキルなどを体系的に学ぶことができます。また、法改正やDX活用など、最新技術や業界動向を学べる点も大きなメリットです。

社内教育だけでは対応しきれない分野を外部に任せることで、中堅社員は現場運営や技術指導など、本来注力すべき業務に集中できるようになります。特に人材不足が深刻化している現在は、「教育を外部リソースと分担する」という考え方が重要になっています。

DXによる業務効率化を進める

教育時間を確保するためには、日々の業務負担を減らすことも欠かせません。そこで注目されているのが建設DXです。例えば、情報共有アプリを活用すれば、現場写真や進捗状況をリアルタイムで共有できます。クラウド管理を導入すれば、図面や工程表をいつでも確認できるため、資料探しに時間を取られることも少なくなります。

また、電子帳票化によって書類作成や承認作業を効率化できれば、施工管理職の事務負担を大幅に削減できます。こうした業務効率化によって生まれた時間を若手育成に充てることで、教育と生産性向上の両立が可能になります。

若手育成の課題を解決するためには、教育制度の見直しだけでなく、業務そのものを効率化する視点も必要不可欠です。

建設業の未来を守るために必要なこと

建設業の未来を守るために必要なこと

建設業界では人材不足や高齢化が深刻化していますが、その課題を解決するためには単に採用人数を増やすだけでは不十分です。重要なのは、若手が継続的に成長し、技術やノウハウを次世代へ引き継げる環境を整えることです。そのためには、中堅社員の負担軽減と人材育成を同時に進めながら、教育を仕組みとして定着させる必要があります。

ここでは、建設業の未来を守るために企業が取り組むべきポイントを解説します。

中堅社員を「作業者」から「育成者」へ変える

現在、多くの建設会社では中堅社員が現場業務と教育業務の両方を抱えています。しかし、業務量が多すぎると若手を育てる余裕がなくなり、自分で仕事を抱え込む状況が続いてしまいます。

本来、中堅社員は現場の中心として技術を継承する重要な役割を担っています。そのためには単なる作業者としてではなく、若手を育てる育成者として活躍できる環境を整えることが必要です。中堅社員が教育に時間を使えるようになることで、若手育成の質は大きく向上します。

若手が成長できる環境づくりを行う

若手社員の成長は本人の努力だけで決まるものではありません。会社側が学びやすい環境を用意することも重要です。

例えば、eラーニングや研修制度を活用して基礎知識を学べる仕組みを整えたり、質問しやすい職場環境をつくったりすることで、若手は安心して成長できます。また、成長の目標や評価基準を明確にすることで、学習意欲の向上にもつながります。

若手が成長できる環境を整えることは、将来の現場を支える人材への投資でもあります。

技術継承の仕組みを整備する

建設業では長年培われた経験やノウハウが大きな価値を持っています。しかし、それらが個人の知識として蓄積されたままでは、退職や異動によって失われるリスクがあります。

そのため、技術継承を個人任せにするのではなく、組織として仕組み化することが重要です。動画マニュアルや教育資料の整備、業務手順の標準化などを進めることで、誰でも学べる環境を構築できます。

技術継承の仕組みが整えば、ベテランの知識を次世代へ確実につなげることが可能になります。

教育を個人任せにしない組織づくり

これまでの建設業界では、「先輩が後輩を育てる」という文化が一般的でした。しかし、人材不足や働き方改革が進む中で、その方法だけでは限界があります。

教育を継続的に行うためには、個人の熱意や経験だけに依存しない組織づくりが必要です。教育計画の策定や研修制度の導入、育成状況の可視化などを行い、会社全体で若手育成に取り組む体制を整えることが求められます。

教育を仕組みとして定着させることが、中堅社員の負担軽減と若手育成の両立につながり、結果として建設業の未来を支える力になるのです。

まとめ

建設業界の人材不足は、単純に採用人数を増やすだけでは解決できません。中堅社員に業務が集中し続ける環境では、若手育成に十分な時間を確保できず、技術継承の停滞や生産性の低下を招く恐れがあります。

特に2024年問題以降は、中堅社員が現場運営と教育の両方を担うケースが増えており、従来のOJT中心の育成方法だけでは限界が見え始めています。この状況を改善するためには、中堅社員の負担を軽減しながら、若手が継続的に学べる環境を整えることが重要です。

eラーニングや外部研修の活用、教育コンテンツの標準化、DXによる業務効率化などを進めることで、教育を個人任せではなく組織の仕組みとして運用できるようになります。

建設業の未来を支えるのは若手人材であり、その成長を支えるのは中堅社員です。だからこそ、今求められているのは「中堅社員に余白をつくる仕組みづくり」です。若手育成と技術継承を継続できる体制を整えることが、企業の持続的な成長と競争力強化につながるでしょう。

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