「そろそろ我が社でもDXを進めていこうか」
「いよいよ効率化を進める必要があるな」
そう考えている多くの企業が最初に着手するのは、ペーパーレス化や印鑑の廃止といった取り組みです。確かに、これらを実施すれば少しは楽になるかもしれません。
ところで皆さんは、ペーパーレス化を進めて少しは楽になったという実感はあるでしょうか? おそらく、あまり大きな変化は感じていないのではないでしょうか。もしくは、「どうせ大した変わりはしないだろう」と考えて、ペーパーレス化を進めていない企業も多いのではないでしょうか。
そんな皆さんにぜひお伝えしたいのが、今回の内容です。今回のテーマは、「ペーパーレス化をすべき本当の理由」です。
この記事を書いた人
株式会社 RaisePLAN 代表取締役
武田 祐樹(たけだ ひろき)
【これまでの活動】
- 総合建設業に17年在職後、独立起業。
- 建設現場の生産性向上支援や施工管理の教育支援を展開。
- 中小企業デジタル化応援隊事業(中小企業庁)のIT専門家。
- YouTubeや音声配信、Instagram・メールマガジンなどで情報発信を行い、電子書籍の出版やオンライン講師、オンラインセミナー活動に積極的に取り組む。
- 建設業の現場効率化の仕掛け人としてAbemaPrimeに出演(2023年3月)。
ペーパーレス化は、紙をなくすことにあらず
改めてお話しします。ペーパーレス化は確かに大切な取り組みです。「ペーパーレス化を進めよう!」と奮起している企業も多いと思います。一方で、全く手をつけていない紙だらけの会社もあるでしょう。また、進めてはいるものの「それほど楽になった気がしない」という方々も多いのではないでしょうか。そんな皆さんにぜひ聞いていただきたい内容です。
まず結論から申し上げます。ペーパーレス化の本当の目的は、「紙をなくすこと」ではありません。この点を誤解しているために、紙をなくしたことに満足し、結果として何も進展せず、全然楽になっていない、むしろ仕事が増えたという状況が生じてしまうのです。
「紙をなくそう」という表面的な目標にとらわれているために、前に進めないのです。まずは、この勘違いを理解し、その上で正しい方向に進んでいただく必要があります。
データの力
今は時代がどんどん進化しています。技術も急速に進歩していると感じることがあるでしょう。私が入社した頃は、エクセルが普及し始めた時期でした。エクセルの登場で、関数を使って計算がしやすくなり、正確な結果が得られるようになり、電卓の使用が減っていきました。
現在では、施工管理専用のアプリや電子黒板のアプリなど、技術がどんどん進歩しています。また、クラウド技術の登場により、多くの人と繋がれるようになり、便利に使えるようになりました。AIの活用によって業務の効率化を進め、経営の分析を行い、新しい取り組みを始める企業も多くあります。
しかし、こうした技術を使おうとしても、実際には使いこなせていない企業も多いのが現実です。その理由は、すべてのアプリや技術、IT機器を動かすための「餌」が不足しているからです。その「餌」とはデータです。便利なツールはすべてデータによって動かされています。例えば文字データ、テキストデータ、数字データ、音声データ、画像データなど、あらゆるデータがあるからこそ、それを分析し、自動化することで効率化が進むのです。
つまり、データがなければ、これらのツールは全く役に立ちません。単に紙をなくしたことに満足している会社や、ペーパーレス化を進めてもいない会社にとっては、どれだけ世の中が進歩し、便利なツールが登場しても、それは無関係な話になってしまいます。
ペーパーレス化の必要性
そうやって進歩から切り離されたところで生活していると、いわゆる原始人のような、ガラパゴス化した働き方をしていることに気づくことすらできません。便利に、効率的にするためには、データを活用し、IT化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることがこれからの時代には必須です。
そのために必要なのがデータです。データがあるからこそ、便利にそれらのツールを使うことができ、いろんなことを自動化することが可能になります。つまり、紙が残っている状態でDX化を進めることは全く無理なのです。
仮にペーパーレス化が進んでいても、そのデータがどこにあるのかわからない、または活用の仕方がわからない人にとっては、DX化を進めることは不可能です。なぜなら、データがない、もしくはデータがあっても使えるようになっていないからです。この点を理解し、データ活用の重要性を認識することが重要です。
データ活用のメリットと手作業の問題点
データを活用できれば、仕事を自動化し、計算や整理、分析を完璧にこなすことが可能になります。たとえば、会議を録音して自動的に議事録を作成することもできますが、それをしないと手書きで記録し、後で文章に起こす作業が必要になります。
工事黒板の内容をデータ化すれば、一度作成したものを次の現場でも、周りの人たちと共有して便利に使うことができます。しかし、手書きの黒板を使っていると、毎回消して使い捨てにするしかありません。
手書きの請求書も同様で、再入力する必要が生じたり、紛失するリスクがあります。印鑑を押した書類が見つからないなどの問題も発生しがちです。
データ化を進めることで、これらの手作業の手間やミスを減らし、効率的な業務運営が可能になります。データ活用は、業務の自動化と効率化を実現するための鍵です。
ペーパーレス化の真の目的
まずはペーパーレス化を進めることが大事です。ただし、その目的は紙をなくすことではありません。ペーパーレス化の本当の目的は、『データ化すること』です。データ化するために紙をなくすのです。
紙をなくすこと自体を目的にしてしまうと、紙がなくなった段階で「ああよかった」となりますが、それでは進歩とは言えません。単に新しいツールを使ってみただけに過ぎないのです。ペーパーレス化を進めましょうという言葉の真理は、「データ化しよう」という意味に集約されます。
では、なぜデータ化が重要なのでしょうか? それは、データにさえなれば、あらゆるツールが選択肢に入ってくるからです。データを活用すれば、世の中のITツールが意味を持ち、業務の自動化や効率化が可能になります。もちろん、データを使わない選択肢もありますが、データがなければその選択肢すら存在しません。
データが活用できる状態になれば、様々な技術やツールを利用することができ、業務の効率化が進みます。ペーパーレス化の本当の意義は、データを活用して業務を進化させることにあります。
まとめ
世の中で起きている技術の進歩や新しい技術の開発について、今までは「ふーん」と思っていたかもしれません。しかし、データを活用できるようになれば、「この技術はうちでも使えるかもしれない」と気づくことができるようになります。そのためには、データが存在することが前提です。
紙のままでは、AIの活用は全く意味がありません。データ化されていれば、AIに分析してもらい、答えを出してもらうことができます。あらゆる数字のデータをまとめて、経営や現場の運用に役立てることも可能です。しかし、データ化の意識がない企業にとっては、こうしたメリットは無関係です。結果的に時代に取り残されてしまいます。
改めて言います。データ化は選択肢を広げることです。アプリもAIも、データがあれば活用できる選択肢になります。紙のままでは、時代や世間から切り離されることになります。建設業が遅れていると言われる理由もここにあります。だからこそ、まずペーパーレス化を進めましょう。
手書きのデータや一枚しか存在しない図面など、あらゆるものをデータにして残すことが重要です。例えば、何気なく打合せをしている内容を録音してテキストに起こすことでデータを蓄積し、それを分析してAIに活用することもできます。
データ化を進めることで、選択肢が広がり、自社に最適なツールや技術を選べるようになります。データとして存在する状況を作り出すことが、現代の企業にとって最初の一歩であり、最も重要なことです。
理解していただけたでしょうか。ペーパーレス化をすべき本当の理由は、データ化を進めることであり、それが現代の業務効率化や技術活用の第一歩なのです。