本記事では、若手育成における新人研修の重要性について説明します。
建設業界は現在、人手不足とされており、この状況が若手社員の育成に悪影響を及ぼしています。具体的には、忙しい現場で十分な指導ができず、若手が成長しないことで中核となる現場監督の手が空かず、さらに忙しくなるという負のループに陥っています。業界が改善されるためには、この問題を解決する必要があります。
若手社員の育成が重要なポイントとなります。新人研修を充実させ、しっかりと育成することができれば、次第に現場全体が効率化され、負担が軽減されることでしょう。この機会に教育のあり方について考えてみましょう。
武田祐樹(たけだひろき)
総合建設業に17年在職し、官民問わず数多くの実績を積む。
現在はオンラインを中心に活動し、中小企業デジタル化応援隊事業(中小企業庁)のIT専門家としても活動。YouTubeや音声配信、Instagramなどで情報発信を行い、電子書籍出版やオンライン講師、オンラインセミナー活動も積極的に行う。
2023年3月には、建設業の現場効率化の仕掛け人としてAbemaPrimeに出演。
保有資格
- 1級建築士
- 1級建築施工管理技士
- 1級土木施工管理技士
建設現場生産性向上サポート
HT RaisePLAN 代表
新人研修の必要性とは
建設業界において、「新人研修は必要なのか?」という問いに対する答えは明快です。新入社員にとって、現場での経験だけでは足りないスキルや知識を習得し、社会に適応するために、研修は不可欠です。
しかし、古いカリキュラムを踏襲するだけでは、現代の要求に応えることは難しいでしょう。建設業界は技術の進化や環境の変化に対応し、新しいスキルや知識を備えた労働力を必要としています。
特に注目すべきは、離職率の高さです。大卒と高卒の離職率は、どちらも他の産業に比べて高く、特に中小企業では離職率が著しく上昇しています。この問題に対処するためにも、新人研修の充実が必要です。
新人研修は、技術や実務だけでなく、コミュニケーションやチームワークなどのソフトスキルを養う場でもあります。最新の技術や情報を取り入れたカリキュラムを構築し、将来のスキルアップの基盤を築くことが不可欠です。
このような研修を通じて、新入社員は迅速に業務に適応し、自信を持って仕事に臨むことができるでしょう。また、企業文化や職場環境に適応し、離職率の低下や人材の定着に貢献することが期待されます。
結論として、新人研修は建設業界において不可欠であり、特に現代においては進化し続ける必要があります。古いカリキュラムでは新しい時代の要求に応えることは難しく、教育担当者は現場のニーズに即した最新の研修プログラムを提供し、研修後のフォローアップや評価を適切に行う必要があります。
新人研修は、企業と社員の両方にとって大きなメリットをもたらすものです。より高度なスキルを持つ社員が増えれば、企業の競争力向上に寄与することが期待されます。建設業界は技術の進歩に追随し、新たな時代のニーズに応えるために、新人研修を重要視し続けるべきです。
新人研修をするべき理由
ではここから、僕が新人研修をするべきだと考える理由について、1つずつ紐解いてお伝えします。
一昔前より、業務レベルが跳ね上がっているから
ベテランとして働く先輩たちが若い頃の時代の業務量と比較すると、現代の若者の働く業務量は比較にならない程増えています。そしてレベルも跳ね上がっています。これについての詳細は、以下の記事をご参照下さい。
記事にも書きましたが、以前に比べて業務量は圧倒的に増えているのにも関わらず、ベテラン層は「昔よりも楽になっているのに・・・」と考える人が多く存在します。まずはこの思考ギャップを払拭することが必要です。
その上で、それでも会社は継続していかなければいけない責務があります。であれば、単純に成長速度を上げないと追いつけないことになります。かと言って無理強いするわけにはいきません。
だからこそ質の高い研修を行い、成長を加速させる必要があると考えるわけです。
SNSの重要性と危険性を、先輩が理解していないから
現代社会は情報化社会です。情報の効果的な活用が、効率化の鍵となることは言うまでもありません。単純明快な事実ですが、考えてみてください。「世界中に蓄積された知識」と「皆さんの脳に詰め込まれた知識」、どちらが多いと思いますか?おそらく、答えは明らかでしょう。
以前は、世界中の知識を取り出すことが難しかったため、「脳に知識を詰め込むべきだ」という考え方が支配的でした。しかし、ITの進歩により、スマートフォンなどを通じて、いつでもどこでも世界中の知識を瞬時に検索できるようになりました。この利便性は今後もますます進化するでしょう。
では、なぜ情報量が急増したのでしょうか?その一因は、情報を気軽に発信できるようになった「ソーシャルメディア(SNS)」の普及です。
SNSは危険な場所。情報を軽々しく発信してはいけない、という指摘もあります。しかし、便利なツールは使わざるを得ません。そこで、逆の視点で考えてみましょう。その強みを最大限に活用する方法を見つけることができれば、問題ありません。
情報を発信することは危険かもしれませんが、情報を受け取ることは非常に重要です。これは矛盾した考えではありません。むしろ、教育によってルールを教え、情報の活用方法を教育するべきです。包丁を危険なものとみなして排除するのではなく、上手に使う方法を教育することが秩序を保つ手段だと考えます。そのためにも研修は必要です。
建設業には失ってはいけない魂があるから
この変革の時代において、常識はどんどんとかわってきました。人々の生活を作り、安心と安全を確保する責務のあるこの建設業界も、時代に合わせ変化しなければいけません。
ただし、闇雲に変わっていくのは正しい事なのでしょうか?と考えると、僕は違うと思います。なぜなら建設業には、絶対に変わってはいけない「魂」があると思うからです。太古から続く長い長い歴史の中で培われた、守るべきものがあると思うのです。
まだ真っ白な新人に対し、仕事はどうやってやるのかというテクニックばかりを教え、奔放に育成してしまうと、本当は変えちゃいけない魂まで変割ってしまいかねません。だからこそ、これからの新人には「魂」の部分は知っておいてもらうべきだと考えます。だから現場に出る前に、しっかりとした研修が必要なのです。
教えられることに慣れている時期だから
ついこの間までは学生でした。席につき、先生から教えられるという時間を12年以上続けてきたわけです。新人の状態では、まだまだ「教えられる」という気分が抜けきれません。もちろん、仕事は自分の頭で考えて進められるようにならないといけないのは分かります。
ですがまだ学生気分の内に、机上で教えられることだってあるはず。現場に出てしまうと、そういう機会はなかなか獲りずらくなるのは事実ですよね。だからこそ、今のうちに集中して植え付けることを、的を絞って教えるべき。そのタイミングとして、新人研修は有効だと考えます。
古い先輩と分かり合えるため
いつの時代もそうですが、年配者と若者はなかなか分かり合えないものです。「最近の若いやつらだったら」「それジェネレーションギャップっすよね」そういう不毛な食い違いは多く存在します。心当たりありませんか?
だからこそ、共通言語を一つでも作っておくことは大切だと感じます。先に会社にいる先輩側はすでにたくさんの仲間がいます。その中に、か弱い新人が入社するわけです。考えただけで胃が痛くなりそうなその状況、やっぱりハードルが高く辞める原因の一つにもなり得ます。
その状況を少しでも緩和するためにも、新人側には「共通言語」を知っておいてもらった方がよいと思いませんか?つまり少しでも専門的な知識を手に入れてもらい、それを糸口に先輩たちに溶け込んで欲しいなという願いです。
そうすれば、全く会話の通じない異星人から、ちょっとは話の通じる人に昇格することはできますよね。これによってお互いの壁を少しでも低くするために、社風や基礎知識を新人研修で学んでもらうのです。
まとめ
本記事では若手育成における新人研修の重要性について解説しました。
もちろん、現場で必要な基礎知識を教えることは大前提です。初期に最低限必要なスキルとして、設計図がわかる、施工図が読める、工程表を理解できる。その程度はしっかりと教えてから現場に配属されるべきだと考えます。
ですが、そういう実務以外にも、研修を行う意味があると感じていただけたのではないでしょうか。「そんなことは現場で覚えればいい」という今までの考えを、少しでも見直すきっかけになったのであれば幸いです。
新人に必要なのは、まずは居場所です。明日もここに来ていいんだと、心地よく思ってくれる場所を作ってあげることが必要なのです。そのためには、役割を与えることが必要です。そしてできることが増えると役割も増やせます。そしていつしか「楽しい」と思ってくれるようになります。
早く組織の一員になるために。そうなるまでの時間を加速させるために。新人研修は必要不可欠だと考えています。研修を通じて、新人が組織に適応し、自己成長できる環境を整えることが重要です。
新人研修は、単なる知識やスキルの伝達だけでなく、意欲ややる気を引き出し、組織文化や価値観の共有を促進します。また、新人同士の交流やメンター制度の導入も有効です。これにより、新人の定着率や生産性の向上につながります。
結局のところ、新人研修は企業の未来を担う人材育成の一環であり、長期的な視点で見たときに大きな成果を生み出すものです。研修プログラムの充実と適切なフォローアップを通じて、新人の成長と組織の発展を両立させることが重要です。