施工管理は、私の知る中でかなり難易度の高い職業と言えます。医者や弁護士のように、高い学力が必要なわけではありません。デザイナーや陶芸家のようなセンスや技が必要なわけでもありません。なのに、なぜか難易度が高い職業。
それはなぜ?
この記事を書いた人
株式会社 RaisePLAN 代表取締役
武田 祐樹(たけだ ひろき)
【これまでの活動】
- 総合建設業に17年在職後、独立起業。
- 建設現場の生産性向上支援や施工管理の教育支援を展開。
- 中小企業デジタル化応援隊事業(中小企業庁)のIT専門家。
- YouTubeや音声配信、Instagram・メールマガジンなどで情報発信を行い、電子書籍の出版やオンライン講師、オンラインセミナー活動に積極的に取り組む。
- 建設業の現場効率化の仕掛け人としてAbemaPrimeに出演(2023年3月)。
施工管理の仕事の難易度が高い理由
答えはシンプル。戦う相手が、すべて「人間」だからです。
命令すれば必ずいうことの聞く、ロボットや生産機械とは話が違います。コツコツ進んでいけば必ず結果のでる、プログラミングとも違います。昨日よかったことも、今日になれば答えが変わる。お礼を言わないだけで仕事ができなくなる。そんな理不尽ともいえる「人間味」を相手に仕事をしているのです。
出入りする何千もの人が、それぞれに個体差があり、その全員がもれなく何かの世界のプロ。一癖も二癖もある人間ばかり。所長然り、先輩然り、職人然り、設計然り。もちろん施主だって例外ではなく、そもそも億単位の買い物をする組織の人間です。癖がないわけがありません。
そんな人たちを相手に、若くして対等にやりあおうってんだから、常識的に考えて無理があるわけです。
改めて言いますが、施工管理という仕事自体、難易度の高さに関しては全業種トップクラスだと私は考えています。そしてこの業界を生き抜いてきた先輩上司は、いわば「化け物」。相当の強者たちだと言えるのです。
きっと辞めたいと思っているあなたは、「仕事量が多い」もしくは「人間関係がうまくいかない」のどちらかではないでしょうか。それはつまり、言い換えるとこういうことになります。
何千人の癖のあるプロ集団を相手に・・・闘うことが辛い
業界の生んだ化け物相手に・・・うまくいかない
よく聞いてみてください。そらそうですよね。落ち着いて考えると、うまくいっている方が不自然とも言えます。
まずわかってほしいこと。それはあなたが選んだ職業が、そもそもものすごく難しい職業に就いたということです。
あなたがこの業界で、どのぐらいの期間頑張ってきたのかはわかりません。ただ、そのくらい難易度の高い職業において、今の今まで努力しもがいてきたことに関して、誰も止めることはできませんし、否定することもできません。
ただもしも、ほんの少しでも「本当は残っていたい」という気持ちがあるのなら、このまま聞いてください。建設業を愛し、長い間携わってきた僕が言えることをお伝えします。
相手は人だからこそ
施工管理は人間が相手であり、だから明確な答えがなく難しいといいました。そして周りの人は皆、そんな環境を潜り抜けてきた癖の強い猛者たちだと言いました。要するに、超ハイクラスの職業において、正解のない業界にあなたは喧嘩を売ったのです。
その環境で少しの間見てきた世界はどうでしたか?「とてもかなわない」と感じたのではありませんか?そんなあなたに、まず伝えたいことは、【僕も同じだった】ということです。
戦う相手が大きく、それが当たり前という不可解な環境に身を投じた結果、まるで自分が小さいかのように感じてしまっています。頑張っても頑張っても報われない状況だと感じてしまっています。だから嫌になってきた。そうじゃないでしょうか。
少なくとも僕はそう感じました。頑張っても頑張っても、先輩の背中は遠い。いつまでたっても偉そうなことばかり言われる。どんなに知識を付けても知らないことが多すぎる。そんな状況で、自身が身につくはずもありません。絶望した時期もありました。
じゃあそんな僕はどう克服したのかというと、それは自分で気付いたんです。戦う相手が人間だったということに。
人間ってめんどくさいですよね。自分よりも幼い人間には負けたくないという気持ちを持っています。
例えば先輩である僕が、後輩のあなたに負けないでいる方法として、最も有効な作戦は何だと思いますか?それは簡単。「負けない仕事しかさせないこと」です。
相手が勝てない土俵に上げてしまえば、自分はいつまでも偉くいられるじゃないですか。だから、あなたに与えるものは「絶対に負けない部分」の仕事ばかり。だから偉そうにできるわけです。そしてあなたは絶対に勝てないと感じるわけです。
そしてもう一つ追いつけない理由があります。それは、相手が人間である以上「先輩も成長している」こと。自分と同じ速度で先輩も成長していれば、進んでも進んでも追いつけない夕日のような関係性になります。
以上二つの理由により、あなたは絶対に先輩に追いつくことはないということになります。ただこれは自然なことであり、どこでも起こっている状況です。建設業だから特別ということではありません。
あなたは成長していない?
でもね。ちょっと力を抜くことはできないですか?何度も同じことを言いますが、相手は歴戦の猛者。そんな人達ばかりの中であなたは今まで生きてきたわけですが。そんなあなたは、本当に「成長していない」んでしょうか?
人は、環境によって成長速度が変わると言われています。例えば、年収500万円を目指している人にとって、きっとそこに至るまでの道のりは簡単ではないことでしょう。きっと500万円に到達したときには「やった!」となりますよね。
ではもし、年収1億円を目指して努力をしていたとしたらどうでしょうか。500万円の年収になった時に、「たった500万円かよ・・・」と残念に感じると思いませんか?もしかしたらあなたは今、そんな状況にいるのかもしれません。つまり、成長に気が付いていないだけなのかもしれないということです。
ちなみに僕がそうでした。ある瞬間にそれに気づき、一気に肩の荷が下りました。それはある時、自分の母親に「最近仕事どうなの?」と聞かれました。それを「どうせ言ったってわかんないだろ」と突き返したときです。
その時ふと思いました。「どうせ言ったってわかんない」と、お母さんに対して感じたわけです。でもたった数年前までは、彼女と同じ立場だったはず。建築のことなんて全然わからない「ど素人」だったはずなのです。
にもかかわらず、お母さんに対して「どうせ言ったってわかんない」ところまで、自分は進んできたんだということに気付いたのです。同時に、わからないと言っている人を邪魔くさく感じた。これはまさに、先輩が自分にしていることそのものだなとも感じました。
実は成長していたんです。でも相手が人間であり、その人間はハイレベルの猛者。その背中を見て追いつかないように感じていた自分も、実は成長していたことに気付いたのです。お母さんを置き去りにするほどに。
わかってほしいことは、今までの仕事人生は「まったく無駄だった」わけではないということです。先輩や上司についていこうと必死になった結果、しっかりと成長していたのです。ただ一点、それを感じる暇がないくらい、心に余裕がなかっただけなのです。
僕からのアドバイスは、もしもこの仕事を辞めるのなら、せめて一体自分がどのくらい成長しているのかを実感してからにしろ、ということです。
自分の実力も、ポジションも何もわからないまま違う業界に行ったのなら、きっと「ゼロ」からのやり直しになります。でももし、知らず知らずに何かスキルが手に入っていたのであれば、それはあなたの力になるはずです。
人は、少しでも時間がたてば、経験をしています。それがどんな辛いものであれ、それはあなたの力になり得ます。ここまで上を見続けて努力し、前を見続けてくらいついてきたのであれば、少しの間でいいので下もみましょう。後ろをついてきている後輩を見ましょう。
そして知っていることを教えてみましょう。愚痴ではない、後輩のためになる話を。後輩じゃなくてもいいです。お母さんでもいい、友達でもいい、誰でもいいから業界の話を思いっきりしてみましょう。マイナスな話ではなく、前向きな話を。
そうすれば、きっと自分の能力が見えてきます。どこまでわかってて、どのポジションにいるのか。それを理解した上で、改めで考えてみてください。本当に辞めるべきか。もう少しだけ頑張ってみるのか。
自分の立ち位置を確認しよう
結局僕らは人をつなぐ職業。相手をするものは、すべて人。そしてあなたもその中の一人です。
きっと癖の強い側の人になる。だって僕らは建物なんて建てていません。誰かに建ててもらってなんぼの世界。明確な商品といえるものはなく、不明確な「人間味」を相手にしているから、答えがない。だから自分なりの答えを探し、決断していく。つまり答えはいつも、人による。癖がないと生きていけない業界なのです。
ゆえにマニュアルがなく、一つ一つ答えが違い、ゴールまでが長い。そしてこの独特な環境から逃げることもできない。現場が変わるごとに、その都度新しい人間関係も作らなきゃいけない。ついた所長の考え一つで、現場の難易度が変わる。
そんな理不尽極まりない世界、他にはありません。ただ、もしも上に立つことができれば、好き放題できるのも事実。理不尽とは、相手があってのことですよね?
あなたが上に立てば、あなたこそが「理不尽」となるのです。好き放題です。
辞める前に、まずは自分の立ち位置を確認しましょう。今まで見えていなかった部分が見えることになれば、違った世界が広がるかもしれません。それからでも遅くないのではありませんか?せっかく踏ん張ったなら、その軌跡を見返してみましょう。
そしてそれでも辞める決断をしたのなら、全力で前に進んでください。世の中に貢献できる仕事は、施工管理だけではありません。自信をもって進みましょう。何も恥じることはない、あなたの人生です。
もしも残る決断をしたなら、相変わらず先輩を追いかけてください。ただし、たまに後ろを振り返るようにもしましょう。時々肩の力を抜いてみよう。きっと自分が成長していることに気が付くはず。人生なんて、どこにいて何をやったってそんなもんなんじゃないかなと思うんです。