建設業界では、技術の進化や社会の変化に伴い、若手現場監督の育成が急務となっています。特に、現場監督は工事の進行を左右する重要な役割を担っており、その育成が会社の競争力や持続的な成長に直結するのです。
しかし、現場監督の仕事は特殊で、その育成には多くの課題が伴います。若手が適切なスキルや知識を身につけ、確実にリーダーシップを発揮できるようになるためには、計画的で段階的な教育が必要不可欠です。
この記事では、そんな現場監督育成のプロセスを4つのフェーズに分けて詳しく解説します。単に作業を教えるだけではなく、段階ごとに必要なスキルや役割を明確にし、若手が自信を持って次のステップに進めるように支援することが重要です。この4つのフェーズに従って育成を進めることで、若手は確実に成長し、現場を円滑に運営する力を身につけることができます。
この記事を読むことで、現場監督の育成における具体的なステップを理解し、自社の若手育成に役立つ知識と方法を得られます。読んでいただくことで、現場監督の成長を促進し、結果的に会社全体の成功をサポートするための確実な方法を学ぶことができます。
この記事を書いた人
株式会社 RaisePLAN 代表取締役
武田 祐樹(たけだ ひろき)
【これまでの活動】
- 総合建設業に17年在職後、独立起業。
- 建設現場の生産性向上支援や施工管理の教育支援を展開。
- 中小企業デジタル化応援隊事業(中小企業庁)のIT専門家。
- YouTubeや音声配信、Instagram・メールマガジンなどで情報発信を行い、電子書籍の出版やオンライン講師、オンラインセミナー活動に積極的に取り組む。
- 建設業の現場効率化の仕掛け人としてAbemaPrimeに出演(2023年3月)。
若手育成の重要性
現場監督の業務は、他のサラリーマンとは大きく異なります。施工管理では、現場ごとに仕事内容が大きく変わるため、同じ作業を何度も繰り返し学べるわけではありません。
たとえば、掘削作業を一度経験しても、次に同じ作業をする機会は1年後、もしくは2年後になることもあります。このため、若手が技術を身につけるには、時間がかかってしまうのが現実です。
さらに、現場の組織形態も特殊です。現場代理人、つまり現場所長は、会社の社長の代理として現場全体を統括します。現場監督の仕事は、この大きな責任を担う現場代理人のもとで進行しますが、忙しい現場で若手の育成に十分な時間を割くのは難しいという現実があります。
このため、若手がしっかり成長するための体系だった指導がなかなか進まないという問題が発生します。
若手育成には「順番」が重要
現場監督は技術職であり、教育そのものが専門外です。技術を教えることは得意であっても、若手を計画的に育てるための「教育プラン」を持っている現場監督は少ないのが現実です。そのため、指導が断片的になりやすく、若手は与えられた作業をこなすだけになってしまい、全体像を理解することなく、成長のチャンスを逃してしまいます。
教育がうまく機能しないと、若手が何を学んでいるのかが明確にならず、業務の流れもつかめないため、次のステップへ進むのが遅くなります。だからこそ、若手育成には明確な順序を持った指導が必要です。
若手育成の4つのフェーズ
若手育成には「順番」が非常に重要です。具体的には、以下の4つのフェーズに分けて育成を進める必要があります。
- フェーズ1: 現場を理解する
- フェーズ2: 現場を動かす
- フェーズ3: 現場を管理する
- フェーズ4: 会社と連携する
これらのフェーズを順番に進めることが大切で、順序を飛ばして教えると効果的な育成ができません。例えば、いきなり「現場を管理する」段階のスキルを教えても、まだ基礎ができていないため、若手は混乱し、自信を失ってしまいます。逆に、教えることが少なすぎると、仕事が単調になり、成長の実感が得られずにやる気を失うこともあります。
重要なのは、「何を、なぜ学ぶのか」を明確にし、長期的なビジョンと短期的な目標を持たせ、着実に成長を実感させることです。上司や先輩は、それぞれの若手が今どのフェーズにいるのかを理解し、早く成長している人には次のステップを、足踏みしている人には現段階でのサポートを提供する柔軟な指導が求められます。
教育の質にばらつきが生じることは、会社にとって大きな不利益です。人材育成には時間と費用がかかりますが、これを無駄にせず、適切なフェーズでの教育を進めることが、長期的な成功につながります。
若手教育フェーズ①:現場を理解する
新人の施工管理者を育成する際、最初に教えるべき重要なポイントを解説します。まず、新人が直面する最大の課題は「致命的なミスを防ぐこと」と「仕事の全体像を理解すること」です。この2つをしっかり押さえることで、安心して仕事を進められる基盤を作り上げることができます。
1. 致命的なミスを防ぐ
建設現場では、安全ルールや法律の遵守が最優先です。例えば、労働安全衛生法や道路交通法の理解が不足していると、事故や法的トラブルが発生し、会社全体に深刻な影響を与える可能性があります。新人には、「なぜこのルールが重要なのか」をしっかり説明し、具体的な事例を用いて、その意味を理解させることが大切です。
2. 仕事の全体像を理解させる
新人は、目の前の作業に追われがちで、仕事の全体像を掴むことが難しい場合があります。現場での役割や工程の流れを把握し、図面の読み方などを教えることで、自分の仕事がどのように全体に影響するかを理解させましょう。これにより、ただ指示をこなすのではなく、考えながら作業するスキルが身につきます。
教育を成功させるポイント
過度な情報を一度に詰め込まず、シンプルに伝えることが新人育成の成功のカギです。最初は全体像をざっくりと説明し、次第に細かい部分を教えていくことで、新人が混乱せずに成長できる環境を作ります。また、社内全体で育成の段階を共有し、上司や先輩が適切なタイミングで指導できるようにすることで、無駄のない効果的な教育が実現します。
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若手教育フェーズ②:現場を動かす
【施工管理の若手育成②】では、若手が自分の力で「現場を動かす力」を身につけることを目指します。単に指示を待って行動するのではなく、考えて判断し、実行に移すスキルを育てることが必要です。このフェーズでの具体的な育成方法を紹介します。
1. 小さな「決断」を経験させる
若手に「決断」を任せることが成長の鍵です。例えば、「会議で使うボールペンを用意して」と曖昧な指示を与え、必要な本数や種類を自分で考えさせます。このように自ら判断する経験を積むことで、少しずつ自信を持つようになります。
2. 「動かす力」と「管理する力」の違い
「現場を動かす力」は、自分の判断で現場を進める能力を養うことです。たとえ失敗しても、それは大きな学びとなります。この段階で重要なのは、自分で考えて行動した経験が自信へと繋がり、やがて現場の指揮を執るための基盤を作ることです。
3. 小さな成功体験を積ませる
現場での成功体験を積むことが若手の成長に直結します。日々の小さなタスクでも、成功を重ねることで「自分で現場を動かせる」という実感が育ちます。これが次のチャレンジへの意欲となり、モチベーションを高めます。
4. 曖昧な指示で考えさせる
新人に考える力を育むため、具体的な指示を避け、曖昧な指示を与えることが効果的です。たとえば、「会議のための準備をして」と伝えるだけでなく、会議の目的や参加人数を考えさせ、その上で必要なものを判断させます。こうすることで、現場の状況を自分で把握し、対応する力が育ちます。
5. 計画を確認して送り出す
新人が立てた計画を確認し、必要な調整をした上で行動させることも重要です。こうすることで、新人は自分の考えが正しいかどうかを確認し、自信を持って次のステップに進めるようになります。
6. 結果よりプロセスを評価する
新人を評価する際は、結果ではなくそのプロセスを重視します。なぜその判断をしたのか、どのように考えたのかを振り返り、一緒に学びを深めることで、次の挑戦に繋がる貴重な経験となります。プロセスを評価することで、新人は自信を持ち、成長しやすくなります。
まとめ
第2フェーズでは、新人に「現場を動かす」力を養うことが目標です。小さな決断や成功体験を積ませ、自分で考え行動する力を育てていきましょう。失敗しても大丈夫です。重要なのは、プロセスを通して成長していくことです。
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若手教育フェーズ③:現場を管理する
【施工管理の若手育成③】では、いよいよ「現場を管理する力」を養う段階に入ります。これまでのフェーズでは、基本ルールの理解や自ら判断して動く力を培ってきましたが、このフェーズでは、現場全体を俯瞰して管理するスキルが必要になります。
1. 「現場を動かす力」と「管理する力」の違い
「現場を動かす力」は、決められたルールに従って作業を進めることですが、「現場を管理する力」には、予期せぬ問題への対応や、全体を見渡す柔軟な判断力が求められます。例えば、発注した資材の品質チェックや、安全性の確認、現場の進行状況に合わせた即時の判断が必要です。この段階では、管理者としての広い視野が不可欠です。
2. 「最適解を選ぶ力」を養う
現場では常に予測外の問題が発生し、計画通りに進まないことが多々あります。そのため、瞬時に状況を把握し、最も適切な選択をする「最適解を選ぶ力」が必要です。例えば、地面を掘った際に想定外の障害物が見つかった場合、限られた時間の中で最善の判断を下し、作業を進めなければなりません。このスキルは経験と柔軟な思考によって磨かれます。
3. リーダーとして現場をまとめる
現場管理者の重要な役割は、ただ作業を管理するだけではなく、チーム全体をまとめることです。施主、職人、供給者など、異なる立場の人々が協力し合える環境を整え、全員がベストなパフォーマンスを発揮できるように指揮を取ります。信頼できるリーダーシップを発揮するためには、高いコミュニケーション能力と判断力が求められます。
4. 自分の価値観を持って決断する
リーダーとして現場を管理する際には、自分の価値観を基にした決断力が重要です。現場の状況は常に変わり、マニュアル通りの対応が最適とは限りません。これまでの経験や直感を活かし、その場での最善策を選び、責任を持って行動する力がリーダーとしての成長に繋がります。
まとめ
第3フェーズでは、現場を管理するスキルを磨きながら、チームをまとめるリーダーシップを発揮することが求められます。予測不能な状況に対応し、全体を俯瞰して判断する力を持つことで、次のステップへと進むことができるのです。次回は、さらに「会社との連携」を強化するフェーズについてお話しします。
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若手教育フェーズ④:会社と連携する
【施工管理の若手育成④】では、最終ステージとして「会社と連携し、キャリアを次のステージへ引き上げる力」を養います。これまで現場の運営や管理を学んできたあなたが、次に挑むのは、会社全体を見渡す広い視点を身につけることです。
1. 現場を超えて会社全体を見渡す力を養う
これまで現場をしっかり動かしてきたなら、次は視野を広げて会社全体の運営を意識しましょう。現場単位で成功しても、他の現場や部署が低調だと、会社全体の評価は上がりません。反対に、会社全体で安定したパフォーマンスを発揮すれば、評価も信頼も大きく向上します。個々の現場だけでなく、会社全体のバランスを意識することが、このフェーズでの大きな成長ポイントです。
2. 会社全体のバランスを意識して働く
第4フェーズで必要なのは、会社の運営全体を理解すること。営業が案件を取り、見積もりを作成し、工事が進み、最終的にお客様に引き渡すまでの一連のプロセスを把握しましょう。現場監督として現場を動かすだけでなく、営業や総務、経理など他部署の動きが現場運営を支えていることを認識し、連携を図ることが大切です。この視点が、会社全体の成功へと繋がります。
3. 若手育成とチーム全体の成長をサポート
第4フェーズでは、自分だけでなく、周りのメンバーや若手の成長もサポートすることが求められます。優秀な人材だけでなく、まだ成長が必要な人もチームにいます。自分の知識や経験を共有し、チーム全体の成長を促すことで、会社全体の力が上がり、結果として自身の成長にも繋がります。
4. 新たなキャリアステップを見据える
このフェーズをクリアすると、会社内での昇進や転職、さらには独立など、キャリアの選択肢が広がります。現場を超えた視野を持つことで、あなたは会社に貢献しつつ、次のステージに向けた準備を整えることができます。自分の成長を信じて、キャリアを切り開いていきましょう。
視野を広げて、次のステージへ
最終フェーズを通して、会社全体を見渡す力を磨けば、あなたのキャリアは大きく飛躍します。自分の限界を決めず、広い視野を持って挑戦し続けることで、次のステージが見えてくるはずです。
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新人現場監督育成のための4つのフェーズ:まとめ
以上が現場監督の育成における【4つの成長フェーズ】でした。若手の育成は簡単ではありませんが、適切なフェーズを経て教育を進めることで、優れた現場監督を育成することができます。焦って難しい業務を任せると、若手は失敗を重ねて自信を失う恐れがあります。しかし、段階を踏んで成長を実感させることで、着実に次のステップへ進み、スムーズに能力を伸ばしていくことが可能です。
また、若手自身が「今、自分がどの段階にいるのか」を理解することも非常に重要です。目先の業務だけでなく、将来的な目標を常に意識させることで、モチベーションを維持し、成長を加速させることができます。これは、最終的に個人の成功だけでなく、会社全体の成功にも繋がります。
若手育成には時間と労力が必要ですが、適切な順序を守りながら育てることで、確実に優秀な人材が育ちます。彼らが会社の力となり、長期的な成長の基盤を築くことは間違いありません。適切な教育プロセスを確立し、若手に段階的にスキルを習得させることで、会社の競争力を高め、持続的な成功を収めることができるのです。
若手育成への投資は、会社の未来を輝かせるために欠かせない要素です。焦らず一歩一歩進めることで、優れた現場監督を育て、会社の成長を支える基盤を確立していきましょう。
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