今回は、良いリーダーシップと悪いリーダーシップについてお話ししたいと思います。皆さん、おそらく組織に所属していることでしょう。
例えば、建設現場の場合を考えてみましょう。一番上には現場所長がいます。現場所長の下には主任、主任の下には各番頭、その下に職長、最後に作業員というような階層が存在します。このような組織形態は建設業に限らず、ほとんどの会社で採用されています。
上記の階層の上に位置する人々は、基本的に指示を出したり、物事を管理したりする役割を担っています。そして、このポジションで必要とされる最も重要なスキルは、リーダーシップです。
リーダーシップにはさまざまな種類がありますが、中でも避けるべき悪いリーダーシップと、取り組むべき良いリーダーシップというものが存在します。
リーダーシップのアプローチによって、あなたの成長に大きな影響を与えることができます。今回は、しっかりとその考え方について学んでいただきたいと思います。

武田祐樹(たけだひろき)
総合建設業に17年在職し、官民問わず数多くの実績を積む。
現在はオンラインを中心に活動し、中小企業デジタル化応援隊事業(中小企業庁)のIT専門家としても活動。YouTubeや音声配信、Instagramなどで情報発信を行い、電子書籍出版やオンライン講師、オンラインセミナー活動も積極的に行う。
2023年3月には、建設業の現場効率化の仕掛け人としてAbemaPrimeに出演。
保有資格
- 1級建築士
- 1級建築施工管理技士
- 1級土木施工管理技士
建設現場生産性向上サポート
HT RaisePLAN 代表
建築現場の役割
組織の話をさきほどしましたが、このような組織形態では、個々の人にかかる負担が次第に増えることはご理解いただけるでしょう。
職人さんにとっては、与えられた指示を100%遂行することが最も重要な仕事となります。指示を遂行することで基本的にはミッション達成となりますので、他の誰を支持するかではなく、与えられた仕事を遂行することが仕事となります。
職長さんの場合、自分の担当する職人さんが10人いるとします。その10人に対して指示を出し、指示がしっかりと実行されているかどうかを確認しながら、同時に自身も動かなければならない立場になります。
この段階で既に、10人の人々に指示を与えて管理しなければならない責務が発生し、自分の思い通りに行動してもらわなければならないという責任が生じることがわかります。この三角形のピラミッドが一段階上がるだけで、これだけの人数をコントロールしなければならない状況になるのです。
番頭さんは、異なる現場を含めて複数の職長さんに対して指示を出さなければなりません。
主任さんは、現場監督の立場になると、各番頭さんに対して個別の指示を出さなければなりません。
現場所長は、主任たちをまとめる役割を担っています。現場所長のポジションにいる人は、自分が指示を出しているのは一人や二人だけだと思っているかもしれませんが、その影響力は裾野を広げて数千人規模に及ぶものになるのです。
ですから、このような人々全員が一定のルールに基づいて現場を運営することが重要です。全員が同じ方向を向くためには、リーダーシップが不可欠なスキルのひとつであることが重要なのです。
しかし、リーダーシップにはうまく取り組める人と苦手な人が存在します。また、得意な人もいれば苦手な人もいるということです。
リーダーシップの差ってなに!?
リーダーシップをうまく発揮できる人は、上司やリーダーとしての資質を持つ人々です。彼らは「あの人はリーダーの素質がある」と言われる存在です。しかし、リーダーにふさわしくない人がリーダーにならざるを得なくなる場合もあります。
具体的な例え話を用いて説明します。
現在、コロナ禍の影響で、職人や現場、会社、地域など、どこでも基本的にはマスク着用が求められる状況です。建設現場でもマスク着用が必須というルールを設けましたが、職人たちはマスクをする現場としない現場に分かれました。
ここでリーダーシップの考え方に圧倒的な差が現れるのです。
うまくいかない…
マスクを着用しなかった現場で何が行われていたのかを考えてみましょう。
朝礼で作業員たちに皆マスクを着用してくださいと呼びかけました。打ち合わせや帰り際にも明日はマスクを持ってきてくださいと再度呼びかけました。次の日、マスクを着用してきたのはわずかに2割の人たちでした。
その残りの8割に再度朝礼で呼びかけました。次の日にはマスクを着用した人は3割に増えました。残りの7割はまだマスクを着用していませんでした。そこで人海戦術が導入されました。係員や主任、所長全員が現場に出て、マスクを着用していない人たちに個別に声をかける作業を行いました。すると次の日、マスクを着用してきた人は8割に増えましたが、2割の人はまだ着用していませんでした。
なぜでしょうか。建設現場では日々職人が入れ替わるためです。その2割の職人たちに対しても継続的に呼びかける必要があるのです。これがリーダーシップがうまく機能していない側の取り組みです。
大丈夫でしょうか?自身に当てはまることはありませんか?
やった!うまくいった!!
2日後には全員が現場でマスクを着用していました。この場合、リーダーがとった作戦は何でしょうか?それは次のようなものです。まず、同じ呼びかけを行いました。「明日必ず皆さんマスクを着用してきてください」というメッセージを伝えました。次の日、マスクを着用したのは2割の人たちだけでした。
そこで、リーダーシップのしっかりとした所長が採用した作戦は、大量のマスクを購入し、現場の入り口に置くことです。そして、「必ずマスクを着用してください」という張り紙を掲示しました。
これが彼らが行ったことです。それ以上でもそれ以下でもありません。
その結果、翌日には90%の人たちがマスクを着用していました。そして、残りの10%の人たちには朝礼で「マスクはあそこにありますので、必ず着用してください」と伝えました。すると、その日の朝礼後には100%の人たちがマスクを着用していたのです。
では、この二つの違いは何でしょうか?それは、マスクにお金をかけたかどうか、本当にそこが重要なのでしょうか?
実際には、これがリーダーシップの大きな差となっているのです。両者の違いや、何が変わったのか、どこで間違った選択がされてしまったのかについて説明します。
リーダーシップにとって大切なもの
それはベクトル!
ベクトルを自分の方に向けるのです。もしもみんながマスクをする方法があるとしたら、どんな方法だろうかと考え、多少のお金がかかってもいいから全員がマスクを自然とする方法を探しました。具体的には、システムとして入り口にマスクを大量に置いておくという方法を取りました。
確かにお金はかかったかもしれませんが、人数が増えてもマスクの数を増やせばいいだけですから、基本的な戦術はそのまま使えます。何百万人になっても対応できるシステムを構築することができます。
大事なものは器の大きさ!
この事例を二人の人間に対して、器で考えてみましょう。失敗している側のリーダーシップしか知らない人の器には、水をちょっと注ぐだけで満杯になってしまうでしょう。
一方、もう一人はどうでしょうか。水を注いでも注いでも溢れない状況を作り出しました。何百万人来たとしてもシステムは変わらなくても大丈夫です。器が大きいと言えるのではないでしょうか。
少なくとも何か悪い事例が起きた時、自分の後輩が失敗したとしても、「そんなことやっていたら日が暮れちまうぞ」と圧力をかけて改善させる方法よりも、「この新人はなんでこういうところで失敗したんだろうか?もしかしたらこの基礎の教え方が悪かったのかな?」と自分に向けてベクトルを常に向けることができます。
これこそが本当のリーダーシップと呼べるものではないでしょうか。このようなシステムをしっかりと作り上げることで、どこまで水を注いでも行けるぐらいの大きな器を持ったリーダーシップが可能になるのです。
まとめ
リーダーシップとは、統率が自然に取れている状態をキープするシステムを作ることです。これが本当のリーダーシップだと私は考えます。
現場や組織においても、ベクトルを自分に向けるべきです。そして現場でうまくいく方法を改善することによって、自然と周りには輪が広がります。情報が集まってきます。
結果として、あなたは大きな存在になるでしょう。すべての事態が好転するきっかけになります。これがリーダーシップの考え方を学ぶことだと思います。
皆さんにお願いしたいのは、何か起きた時や何かが起こりそうな時、相手に向けるのではなく自分自身を改善する方向にベクトルを向けてください。過去の考え方を反省し、一歩前に進んでください。
このようにリーダーシップを手に入れて、将来の人生を歩んでみてください。