【建設DX】現場の働き方改革/始め方の手順【取り組み事例あり】

2024年の残業規制により、建設業界では働き方改革への模索が広がっています。その中で、私の取り組みに関心を寄せた法人様から相談が増えています。

まずは、彼らの将来のビジョンや現在の取り組みについてお聞きし、共通点を見つけます。実際、相談が寄せられるのはうまくいっていない場合が多いのですが、話を聞くと共通の課題が浮かび上がります。

率直に言って、彼らの施策のほとんどはうまくいかないと感じています。ですが、今回はその施策がなぜ機能しないのか、そして働き方改革を実現するためにはどのように考えるべきかをお伝えします。

この記事を書いた人
腕組みをする運営者

武田祐樹(たけだひろき)

総合建設業に17年在職し、官民問わず数多くの実績を積む。

現在はオンラインを中心に活動し、中小企業デジタル化応援隊事業(中小企業庁)のIT専門家としても活動。YOUTUBEや音声配信、インスタグラムなどで情報発信を行い、電子書籍出版やオンライン講師、オンラインセミナー活動も積極的に行う。

保有資格

  • 1級建築士
  • 1級建築施工管理技士
  • 1級土木施工管理技士

建設現場生産性向上サポート
HT RaisePLAN 代表 

目次

働き方改革が失敗する理由

まず、なぜ働き方改革に対する取り組みが失敗するのかという理由をお話しします。

なぜ働き方改革は失敗するのか

まずは、目指す将来のビジョンを聞き、既に取り組んでいることをヒアリングしますが、正直なところ、ほとんどの施策がうまくいかないと感じます。以下はその一例です。

  • 設計事務所のケース:将来を見据えて、BIMを導入
  • 建設会社1のケース:全社員にタブレットを導入
  • 建設会社2のケース:実情把握のため勤怠ツールを導入

これらの事例には共通点があります。それは、業務が増えているということです。何かを「乗せる」ことで業務に対処しようとしています。会社側にはその理由があるかもしれませんが、社員にとっては迷惑なことです。みんな忙しい状況で、パンク寸前なので、業務効率化が必要です。しかし、現状は業務を増やす方向に向かっているため、社員がついていけません。

まずは、今、本気で効率化をしなければならない状況にあると理解する必要があります。したがって、働き方改革の第一歩は「便利ツールの導入」ではありません。一時的でも仕事が増えることは許容できません。現状は業務を減らす必要があります。

まずは、今の業務を一度減らすことから始め、それが浸透して楽になったという実感を得ることが重要です。「明るいうちに帰れるようになった」「なんか余裕が出てきたな」など、社員が実感できるようにすることが第一歩です。

たとえば、タブレットを導入する場合でも、操作説明、アカウント管理、使い方、アプリのダウンロード、課金体制、トラブル対応など、細かい部分が問題になることがあります。軽い気持ちで導入しても、これらの部分が業務を圧迫する原因になります。

業務効率化のツールは 2 種類ある

業務効率化には、品質を上げる方法と業務効率を上げる方法の2種類があります。品質を上げることは大切ですが、まずは労力を減らすことが先決です。なぜなら、仕事量が増えるとストレスも増え、仕事がより激務になってしまうからです。

例えば、建設会社でBIMやタブレット、勤怠管理ツールを導入することは、品質を上げるためには役立ちますが、使いこなすまでの学習や経験には多くの時間と労力が必要です。そのため、導入すると一時的に仕事量が増えることがあり、使いこなせるようになるまで負担が増えることもあります。

そのため、業務効率を上げることを優先して取り組み、余裕が生まれたら品質向上に取り組むことが重要です。業務効率を上げるためには、仕事を減らすことが大切であり、そのためのツールをピンポイントで選んで導入することが必要です。

業務効率化には多くの方法がありますが、使いこなせるようになるまでの負担を考慮し、目的に合わせて適切なツールを導入することが重要です。最初の目的は業務を楽にすることなので、増やすことではなく減らすことに焦点を当てることが必要です。

まずはアナログから着手せよ

働き方改革を進める上で、デジタル化やペーパーレス化、AI活用などに惹かれるかもしれませんが、その前に踏みとどまり、自分たちの業務についてよく考える必要があります。

多くのツールは特定の目的を達成するためのものであり、自分たちに本当に必要なものかどうか見極めることが重要です。自分たちの業務について正確に知り、無駄なものを削除することが、最も簡単で効果的な時間削減の方法です。

働き方改革を掲げるなら、デジタル化よりもアナログから始め、頭で考え紙に書き出して業務の棚卸しをすることが、最短経路であり最重要です。これを怠ると、会社は時代に取り残される可能性があります。

業務の棚卸しの手順書

続いて、業務の棚卸しをするための手順を説明します。

棚卸しの具体的な手順

まずは、全体から詳細に考えることが大切です。例えば、建設業界の場合、受注から完成引き渡しまでのプロセスを大まかに分類します。そして、その中での業務プロセスを細かく分けて、具体的な業務を列挙していきます。この作業は、自分が担当する業務に応じて、業種に関わらず適用できます。

また、業務の性質によって1日の流れやルーティンが異なるため、業務プロセスを4~8程度に適度に分割することが望ましいです。

さらに、現場業務の棚卸しを行う場合には、自社の工事案件の中で平均的な現場規模を想定して、具体的な業務を列挙していきます。小さな業務でも可能な限り列記していき、例えば1日5分の仕事でも、1年で24時間になるため、積み重ねると大きな削減につながることもあります。

最後に、急いでやることが最短ルートではなく、細かく列記していくことが最短ルートであることを忘れずに、業務の棚卸しを進めていきましょう。

①1日、1週間、1工期をイメージして業務を列記

例:朝礼、現場巡視、工事日報、職長会議、などを細かく列記。

毎日行うルーティン的な業務だけじゃなく、施工図チェックや災害防止協議会、工事写真などの時々発生するものや、工期で1回の作業も洗い出します。また移動時間も業務として記載するのがポイント。家から現場だけじゃなく、現場事務所から現場まで、現場から会社までという移動全てです。
 とにかくやっていることは、余さずに全部書くことです。当然、立場によっても変わってくるはずです。しんどくても、すべてひねり出してください。(図-1)

②それぞれの所要時間に、参加人数と日数を掛けて実時間を記載

例:朝礼20分×工期260日×参加人数4人=347時間

日常の平均時間をイメージして書きます。複数人の参加は見逃さずに掛け算をしていきます。これでどのくらいの時間がその業務にかかっているのかを見える化することができます。エクセルで列記しておきデータにしておくことで、のちに割合(%)を計算したりできるため便利です。
 おそらくここまで進んだだけでも、見えてくるものがあると思います。ただここで結論を出すのではなく、その考えや気持ちを、どんどんとメモをして次に進むことをお勧めします。きっと後から考察を行う際に役立つことでしょう。(図-2)

本質的業務にマーキング

例:施工図の場合、チェックするのは本質的業務だが、描くのは本質的業務ではない

絶対に自社の施工管理じゃなければできない、本質的な業務についての項目にマーキングをしていきます。例えば安全日誌を書くのは本質的業務といえますが、KY活動などの記入チェックなどは誰がやっても同じです。また、見積時の全体工程表は誰でも書けますが、工事運営中の月間工程表は本質的業務といえます。

 今まで自社がどうしてきたかを考えるというより、世の中に外注先があるかどうかで考えるのがわかりやすいと思います。もしも外注先が存在するなら、そこに頼んでも業務が回るということ。つまり本質的業務ではないといえることになります。

事務作業なら、社外の臨時事務員を雇用したとして、難易度は関係なしに任せても大丈夫な業務なら、それは本質ではないと考えます。これはさすがに自分しかできないというような、例えば予算のような業務は本質作業といえるでしょう。(図-3)

最初に分けた7つの分類それぞれについて、この順番を繰り返し丁寧に行っていきます。きっと時間がかかりますし、大変なことでしょう。しかし、大切な作業です。これはどうやっても自動化できません。この地味な作業がこれから先何十年もの業務を削減する糸口になります。

 つまりあなたの1日が、将来の数十年もの時間を生み出している可能性があるわけで、とても価値ある時間だと理解しましょう。そう考えれば、やる気が出てきませんか?ここが正念場。これが終われば、光が必ず見えてきます。気を抜かずに淡々と進めましょう。

本質以外を3つに仕分けろ

ここまで、業務の詳細が明らかになり、時間の使い方も見えてきました。また、業務の中には本質的ではないものもあることがわかりました。そこで、棚卸しの最大の目的は「やめること」を探すことだと再確認します。つまり、やらなくてもいい、外注可能、または誰かに手伝ってもらうことが可能な業務を仕分けることが必要です。

最初に、【必要なし】に分類される業務は、即削除しましょう。例えば、ルールだから、今までそうだったからという理由で行っている業務は、時代が変わった今、必要がない場合があります。ただし、場合によっては残す必要があることもあります。例えば、民間工事では不要だが、公共工事では必要な業務がある場合は、明確な決めごとを作ることが大切です。

仕分け作業中に「上司ハードル」がのしかかることがあるかもしれません。「今までやっていなかったのに、なぜ今さら」という問題が出てきた場合は、やらなくても回る業務であることを共通認識としてすり合わせましょう。

また、時間のかかる業務から順番に取り組むことが効果的です。時間のかかる業務を見つけて削減することができれば、改革に取り組む人々の士気も上がります。さらに、社員に発表して協力者を増やすことも効果的です。

外注化を本気で模索せよ

削除すべき対象が見つかり一通り進んだのなら、今度は【外注可能】に焦点を当てていきます。減少可能なものとして仕分けされたものは、最初は保留でも構いません。うまくいかないときや、違う効率化策が見つかった時に、芋づる式に減少させる方が効率的だからです。

 とはいえ、外注先の選定は時間がかかります。なぜなら、外注先があるかどうかがわかっていないからです。情報が不足している可能性があるのです。私は、この段階では「外注先があっても不思議じゃないよね」という考えが浮かぶものに、可能性ありと記載していきました。

私自身が外注先として認識しているものを、参考に挙げておきます。

・施工図を描く
・積算をする
・写真整理をする
・竣工書類を作成する
・工事写真を撮る、整理する
・事務作業を代行する
・現場監督業の派遣
・墨出しをする、測量をする

きっと探せばたくさんあります。多くの人が「めんどくさいな」と感じる専門的な領域であれば、今の世の中はほとんど外注先があると考えてよいと思います。ただ、地元に存在するかどうかは何とも言えません。その場合は、そういう仕事を作り出すことも視野に入れて考えるとよいと思います。

 事実、私は超音波探傷試験業者に対し、「せっかく鉄筋の時に来るのであれば、副業的に写真を撮ることはできないか?」と提案し、導入をしてきました。マッチングをうまく考え、相手の利益になるのであれば、柔軟に考えることも大切だと思います。

根本的な考え方は、施工管理側から仕事を除外することです。であれば外注として外に発注することは、やらなくていい業務が増えることと同義。ただ外注するには準備が必要であり、チェックも必要です。なので、厳密にいうと業務時間はゼロになるわけではなく、1/3程度になると考えておくのが良いでしょう。

 仕分けをしていく作業において、外注先を調べ始めると時間がかかりすぎるため、まずはターゲットと目安だけ決めて置き、あとは定期的にリサーチをしていきながら情報を共有することが大切です。情報収集が重要となるため、多少の時間がかかることは覚悟しましょう。

また、外注化とは自分のテリトリーよりも外に対してお金を投じる行為です。そう考えると、実はパソコンにソフトを入れるのも外注化なのかもしれません。パソコンにお金を払い外注している。そう考えると、さらに視野は広がっていきます。まずは手っ取り早く、仕事を自分の範疇から外に出してしまいましょう。

本質業務を2つに仕分けろ

本質的な施工管理業務について考えていきます。

例えば、施主との打合せや工程表、施工図チェック業務などが当てはまります。これらは簡単に外注化できず、なくすこともできません。しかし、働き方改革のターゲットになります。そのため、単純で反復的な業務と複雑な業務の2つに分けることが必要です。単純な作業と複雑な仕事に分類し、複雑な仕事を改革すべきだと考えます。

単純な作業は効率化できない場合もあり、外注することもできず、なくすこともできません。そこで、デジタル化が出番を迎えます。これまでの働き方改革で、社員は楽になったと感じるはずですが、慣れてしまうと元に戻すことは難しいため、次なる施策を打つ必要があります。

いよいよデジタル化を導入

ここまでで、働き方改革に対する向き合い方・進め方の手順をお話ししてきました。そして、ここからがいよいよデジタル化の領域になります。

デジタル化は、簡単に手をつけるべきではなく、具体的な目的を設定し、ターゲットを絞って進める必要があるということが分かりました。また、デジタルツールを導入するにはコストがかかりますし、自社でアプリやソフトを開発するわけにはいかないので、既存のツールを選ぶ必要があります。

ただし、全てのツールが万人に受け入れられるものではないため、目的を明確にし、自社の業務に合ったツールを見つけることが重要です。周りが使っているからといって、適当に導入すると無駄になってしまうことがあるので注意が必要です。

しかし、今までに様々なトライ&エラーがあったおかげで、使いやすくわかりやすいツールが増えてきています。自社の目的に合ったツールを選び、改革を進めていくことが重要ですが、焦って進めると改革が失敗することもあるので、慎重に進める必要があります。

今後は、皆さんが考えたターゲットに合わせたデジタル化案を立案していきましょう。

最初のターゲットは「移動時間」

まず、紙とデジタルの違いについて整理しておきましょう。紙は物質であり、誰かに届けたいと思った時には人間の手が必要で、汚れたり破れたりすることもある上に、量が多ければ重さもかかります。一方で、デジタルは情報であり、瞬時に劣化せずに送信することができ、大量のデータでも重さがかからず、大量の人々にも簡単に配布できます。

この2つの特性を考慮すると、デジタル化と最も相性が良い要素は何かが明らかになります。それは、「移動時間の短縮」です。すなわち、デジタル化を進める上で最初に取り組むべきは、移動時間の削減です。

皆さんが思い浮かべる移動時間には、自宅から現場までの移動、現場事務所から現場までの移動、現場と会社の間の移動などが含まれます。また、資料の移動も移動時間の一例です。これらの多くの移動時間や労力を最も効果的に削減するのがデジタル化です。例えば、通勤に1時間かかる場合、それがゼロになれば、1現場の工期で200時間以上の時間を節約できます。これが、いわゆるリモートの破壊力であり、デジタル化の恩恵です。

したがって、デジタル化を進める上で意識すべきことは、移動時間をどうやって削減するかです。その上で、皆さんが考えたターゲットと重ね合わせると、デジタル化の方向性が見えてくるでしょう。

例えば、ターゲットが「施工図をチェックする業務」の場合、その業務は現場でなくてもできるため、「リモート化」が浮かび上がります。また、チェックし終わった図面を届ける際には、ファイルをクラウド上で共有することができるため、「クラウドによるデータ共有」も移動時間削減案となります。

このように、ターゲットと移動時間を組み合わせることで、デジタル化の糸口が見えてくるのです。

流行りのツールより実績のあるツールを

次にツールを探す時の注意点をお話していきましょう。

デジタルツールを選ぶときに気を付けることは何でしょうか?

新しいツールをすぐに使うのはおすすめできないので、古くから使われているツールを選ぶべきです。古参のツールは多くの人に利用されているため、信頼性が高く、ネット上に情報が多く存在します。また、古いツールは単純で扱いやすい場合が多いため、中級者以上向けの複雑なツールよりも使いやすい場合があります。

流行りのツールはトラブルが起きた場合、情報が少なく、サポートが受けにくい場合があるため、古参のツールを使うことがおすすめです。

とにもかくにもペーパーレス化

ここまでいろいろな解説をしてきましたが、実はまだデジタル化に関する根本的な部分を説明していません。これからお話しするのは、そもそもデジタル化を推進しようとしたときに、必ず立ちはばかる「壁」についてです。どんなものを導入しようとも、必ずクリアしなければいけない壁があるのです。

建設業は今や、なかなかデジタル化に着手できていない業界の象徴と言っても過言ではない状況です。「建設業はデジタル化なんかできない。」多くの人が口にします。その一番大きな壁は何かと言われれば、それは「ペーパーレス化」です。
 あまりに初歩的な感じがあり、意味なさそうと思われる人がいるかもしれません。ですがペーパーレス化は、実はとてつもなく重要な手法だという事をお話しします。そしてこれには、大きな勘違いを起こしている人が多いことも、うまくいかない原因ともいえるのです。

例えばKY日報だったり、新規入場者記録だったり、見積書や請求書だったり。そういう日々増え続ける紙の書類をデータ化することによって、印刷も不要、綴じたり整理したりも不要にできます。収納しておく棚もなくすことができて便利ですよね。
 このようにペーパーレス化と聞くと、とにかく紙をなくすことが最重要であると思っている人は非常に多くいます。だからこそ「紙代なんてたかが知れている。ペーパーレス化なんて意味がない」と思ってしまう人が後を絶たないわけです。これこそが大きな勘違いであり、この発言は正直悲しくなります。
 なぜなら、ペーパーレス化の本当の意味はそんなもんじゃないから。それは本質を理解できていないということなのです。

はっきり言います。ペーパーレス化の本質は、紙をなくすことなんかではありません。その真の目的とは「データ化すること」なのです。同じように聞こえるかもしれませんが、この認識をはき違えると、前に進まなくなってしまうのです。
 紙は物質であり、データは情報だといいました。一度データ化された情報は、いつでもどこでも利用できますし、広く活用したり分析したりすることが可能です。逆に言うと紙である以上、とても限定的にしか活用することはできないということです。

例えば、社内共有システムを採用する、5G技術を導入する、AIを活用する、ロボット技術を取り入れるなどなど。今後働き方を変えていこうとすると、きっといつかこういった技術を活用しなければいけない場面がやってくるでしょう。でも、これらは全て「データ」があって初めて活用できる手法。
 資料が紙である以上、仮に世界がどんなに発達し、日本がどんなに進化しようとも、そんな技術はあなたの働き方とは完全に無関係です。だって活用する権利を持っていないから。あなたの会社は世の中の技術の進化と無関係であり、結果切り離され、置き去りにされてしまうことになります。

要するに、今加速的に進歩している全てのデジタル技術の、その入り口にあるものがデータなのです。そのため、初めに手を付けなければいけないものこそが、ペーパーレス化なのです。
 「そんなのもう古いよ」じゃありません。「今さら?」じゃないのです。このハードルは今すぐにでも越えなければいけないという事なのです。

お判りいただけたでしょうか。ペーパーレス化とはデータ化。データ化とは、世の中に無数に存在するデジタルツールや、これからどんどんと生み出されるITツールを「選択肢」にすることができる、初めの一歩なのです。
 まだ何から始めようか迷っていたとしても、方向性が見えてきたとしても。絶対に無駄にならない取り組みが、ペーパーレス化だと理解しておきましょう。

【実例の紹介】朝礼の自動化

ではここまでを踏まえた上で、私が実際に行った取り組みの中から実例をご紹介します。今回ご紹介するのは【朝礼の自動化】です。

現場における多くの業務を棚卸しし、その中からいくつかのターゲットを絞りました。その一つが「朝礼」でした。本来はこの業務をなくすことが一番の効率化なのですが、なくせない理由はないのかと考えたのが最初の一歩です。

なくせない理由を考えることが、朝礼の必要性、つまり「核」を見つけることになります。では私が導き出した朝礼の「核」とはなにかというと・・・
  ・作業に入る前に、今日の各作業内容を職人に周知すること
  ・注意すべき安全事項や行事を理解してもらうこと

この2つだと考えました。式に表すとこうなります。

朝礼を行うこと = 作業前に作業内容を周知すること、安全事項や行事を理解してもらうこと

こうやって核を見つけたら、次に今までの業務を一度無視します。そして新鮮な気持ちで考えるのです。

作業前に作業内容を周知すること、安全事項や行事を理解してもらうこと = ○○〇

これら2つの核のみを達成するための方法は、必ずしも「朝礼」であるとは限りません。常識にとらわれずに、自由な発想で考えていくのです。現場を知らない、若い社員を参加させるのもよいでしょう。要するに作業が周知出来て、安全事項が伝わればいいのですから。

そこで私が考えたのは、この2つの核を「動画」にし、大きなモニターで毎朝表示するという方法です。

前日の職長会議の段階で、次の日の作業は決まります。それに安全事項や行事を加えて簡単な台本を制作。それを動画に撮るのです。そして職人が来る朝の時間帯に、それをモニターで延々とループ再生する方法です。(図-5)
 思いついたなら試験運用です。行動に起こし実際に運用してみると、徐々にメリットとデメリットが見えてきます。こうやって検証していくことも重要なポイント。ではそれを列記してみましょう。

メリット

朝礼時の混雑や忙しさが緩和
・元請けも含め各社それぞれのタイミングで出勤
・何度も撮り直せるので、伝え漏れが少ない
・声が届かない人がいない
・大規模現場ではモニターの増設で対応できる

デメリット

撮影に慣れていない内は照れる
・動画を見ない人がいる
・顔ぶれや職人総量が見えずらい
・知らない人が紛れても判別しずらい

良い面もあれば悪い面もあるのは当然。新しい取り組みとはそういうものです。そもそも今までの朝礼だって一長一短あったはずです。大切なことは、行動に移しその結果を検証し改善していく事です。
 ちなみにこの取り組みによる成果はとても大きなものでした。これにより195時間の時間削減に成功し、40万円ほどの費用削減も見込めたのです。

何人かの職人さんに聞くと「朝焦ってくる必要がないのが楽」「いつもは声が聞こえてなかったが、図面付きで解説してもらうのはわかりやすい」との声が聴けました。また当初、嫌がられるかと思われた施工管理側の動画撮影も「人前に出るより、緊張しなくて楽です」との答えが返ってきたのが驚きでした。
 実際の朝礼よりも自由度が高く、そして周知性も良い。人前で話すのが苦手な人をも救うことのできる施策といえます。何より朝ゆっくりとコーヒーを飲む時間ができた気がするくらいの、気持ち的余裕を持てたという印象の結果でした。

成果が上がることはわかりました。だったら、動画を見ない人がいる点を、どう解決するのかを考えるのです。顔ぶれがわからない・知らない人が紛れる可能性を、どう解決するのかを考えるのです。
 そうやって少しずつ、色んな人の意見を聞きながら改善を重ね、最終的に正式な形を作っていけばいいのです。やる前から「無理」と決めつけ、やらない理由を探すのは、もうやめにしましょう。

社員のついてくる改革を

とにかく余白を作りだすことから

働き方改革のスタートは、まず業務量を減らすことから始めることが大切です。これを急いで行わずに、先導する人と社員の考えが一致した改革を進めることが必要です。

例えば、大きな改革を宣言して期待を高めた挙句、業務量が増えてしまうと、人々は不満に思います。改革を進めるためには、まずは小さな成功を積み重ね、信用を勝ち得ることが大切です。

また、改革を進めるためには、革新的なアピールが必要で、変革を求める人物が必要です。しかし、人々は新しいことに対して抵抗があり、自分たちの現状を維持したいと思っているため、敵を作りながらでも、ビジョンを伝え、改革を進めていく必要があります。

最初の改革は、余白を作り、空気を抜く作業から始めることが大切です。

やる気を徐々に波及させ改革を進める

徐々に仕事を減らして、デジタル改革に移行する段階的な方法が最適です。

新しいことをやり始める前に、実際に仕事量が減っているか確認し、徐々に減らしていくことで実感を加速させ、失敗した場合にはリカバリー期間を設けることができます。

しかし、時間を置きすぎると、業務が少ない状態が普通になってしまうので、注意が必要です。じっくり様子を見ながら、社員に意気込みを広めて、攻め時が来たと感じたら、一気に進めることが重要です。

変化を楽しむ

建設業界では、デジタル化に遅れがちだと言われていますが、変革を受け入れようとする人もいる一方で、多くの社員は不満を感じています。しかし、時代の流れは変わらず、方針転換が必要です。

私たちは、自分の気持ちの切り替え方で、変革を楽しむことができます。過去の経験から、新たなことに挑戦することで成長することができることがあります。

デジタル化は必然的に進んでいくため、早めに受け入れて、楽しみながらチャレンジすることが大切です。何かを変えることは、誰にでも冒険ですが、そこには新しい経験や知識が待っているかもしれません。

建設業界は、今まさに新しいステージに進む時期にあります。自信を持って、新たな一歩を踏み出しましょう。

最後に

今回は、建設業界の働き方改革の始め方の手順をお話しさせてもらいました。

  • 働き方改革に対する向き合い方
  • 働き方改革の進め方の手順
  • 働き方改革取り組みの事例
  • 働き方改革に社員を巻き込むための考え方

私の経験を交えつつ、上記の順序での解説になりました。ここにあるものは、働き方改革に対する取り組みのほんの一例に過ぎませんが、参考にしていただけると幸いです。

そして、最後にお伝えしたいことがあります。

若者の提案に耳を傾け、チャレンジする心を持ってほしいと思います。新しいアイデアや発想が、建設業界をさらに進化させることができる可能性があるからです。

例えば、私が以前勤めていた会社では、現場監督の仕事をリモート化することで多くの効果を生み出すことができました。現場スタッフは専念することができ、主任クラスもデスクワークに専念できるようになり、技術力を他の現場にも活かすことができました。また、派遣社員を採用することで人手不足や技術力不足を補うこともできました。

もし若い人から突飛な提案があっても、馬鹿にせずに聴いてあげてほしいです。失敗しても何度でもチャレンジする機会を与え、成功するまでサポートしてあげてほしいです。建設業界は長い歴史で築き上げたものであり、薄っぺらなものではありません。不屈の精神を育み、新しい化学反応を生み出していくことが、これからの建設業界を作り出すのだと信じています。

働き方改革に対する取り組みの相談がしたい、悩みを聞いてほしいというご要望がありましたら、現場ラボにご相談ください。

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